caesium




覗き込んだ扉の奥、真理の淵は黒よりも暗い藍色の。
深く深く深いその底から伸びる腕に瞳を固く閉じ、
「オレはまだ、大丈夫‥‥‥」
呟けばそれに引かれるように意識が急浮上した。





「何が『大丈夫』なんだね?」
「うおッ!?」

目を開けた途端のアップは心臓に悪い。
一歩退きたくてもソファに身を埋めた姿勢じゃあ適わずに、まあ仕方がない、相手に退いてもらうことにする。

「‥‥‥目覚めの挨拶にしてはいただけないが?」
「あ、そっか。おはよう大佐」

着痩せする腹筋を蹴り飛ばそうとした足は直前で掴まれて、

「‥‥‥‥‥‥おはよう」

ポイッと放されて降ってくる。今日の天気は足のち溜め息アーンド顰めっ面。で。

「おやすみ〜」

ひらひらと片手を振ってまた目を閉じた。その向こうでちょっと止まった空気と、もうひとつ、大きな吐息。
どうやら今日は土砂降りらしい。溜め息出血大サービス。それに、

「‥‥‥おやすみ」

おまけみたいに降ってきた。頭の上に、大きな手のひら。





藍の淵に吸い込まれるように意識が遠ざかる。
でも大丈夫。何を見ても、何も見なくても、
もう一度ここに戻ってこられることだけは確か。










セシウム。アルカリ金属希元素の一つ。元素記号 Cs 原子番号五五。原子量一三二・九〇五。
炎色反応シリーズ第6弾。
溜め息を一回つく度に縮まる寿命は一日でしたっけ一年でしたっけ?
どっちにしてもそれだとウチの人々はそろそろ寿命がマイナスです。

...031130up

back


[PR]アナタのウラ県民性をチェック:こっそり一人で?ワイワイ皆で?診断しょ