krypton




首を押さえつける腕。それに続く顔を半眼で睨み上げる。
寝込みを襲うなんてのは反則だろう。云えば、

「人の部屋で寝こけている君が悪い」

またぬけぬけと。

「悪いって、その基準は何なワケ?」
「君こそ、いつの間に規定など設けたね?」

ちょいと絡んでみりゃそんな返答。
基準がなけりゃ善悪はなく、ルールなしには反則もない。
悔しいけど振ったのはオレで、2割引きでどっこいってことで納得つけて溜め息ひとつ。

「爽快な目覚めのようで何よりだ」
「今のオレが爽快だったら、世の中みんなハッピーだろうよ」

毒づいてソファーの上に胡座をかく。急所を捉えていた手のひらは、存外にあっさりと離れていった。

「それは素晴らしいね」

本気でそう思ってるとはとても思えない口振りで返す相手に、前髪を掻き上げつつふと思って口にする。

「そういや大佐、『人の部屋』って、今更だけど公私混同も甚だしいよね」
「その『公』の場所で昼寝をしていた君がそれを云うのかね」
「そこを私物化してるヤツに云われたくない」
「私物化とは人聞きの悪い」

肩を竦めた男は口端で笑って、

「私はいつだって公人のつもりだよ。そうだろう、鋼の?」

無駄に自信たっぷりに云ってのけた。あーそっかつまり、

「‥‥‥オオヤケにワタクシしまくってるってこと?」

云ってやれば、微妙に深まった笑顔が迫ってきて口を塞がれる。それに思いっきり眉を顰めて、 次に開いたときには嫌味ったらしく、『焔の』とでも呼んでやろうと決めて、目を閉じた。










クリプトン。不活性ガス元素の一つ。記号 Kr 原子番号三六。原子量八三・八〇。
スーパーマンの母星ではなくね。「隠れた」の意だそうです。
大佐がエドを名前で呼ぶのはどうも想像し難いので、そこに理屈をこじつけてみる。

...030712up

back