lithium




鎖骨の少し下に残された紅い痕に気付いて舌打ちした。
その音に、男が口角を引き上げて彼を向く。

「可愛いものだろう?」
「何がッ!?」
「君の銀時計に比べれば、さ」

不機嫌に男を仰いだ双眸が大きく見開かれた。





時計として使うわけでもなく、
誇示して身分を強調するわけでもなく。
ただ時折、服の上からきつく握り締める。
それは、いつか気付いた少年の癖。
そこに何があるのか、確かめたことこそないが想像はつく。





「思い出すだろう? 目にする度に」
「‥‥‥一緒にしないでくれる?」
「そうだね。一緒になどなり得ない。だが」
「?」

仏頂面に苦く笑って、

「願掛け、のようなものかな」

唇を歪める。





Forget me not. 女々しいそれはけれど誤魔化しようもない本心で。
遠く離れていても、こうしてすぐ傍にいてさえ、
本懐に立ち向かっているとき、彼の心には自分のことなどきっと欠片もない。





「そーゆーことにヒトを巻き込まないでよ」

男の思いになど気付かないまま、呆れた声音で彼は云う。
それに、

「巻き込んだのは」 先に、痕をつけたのは。

微笑んで、告げた。



「君の方だ」










リチウム。アルカリ金属元素の一つ。元素記号 Li 原子番号三。原子量六・九三九。
炎色反応シリーズ第1弾。なんて銘打ってみる。
花言葉をナチュラルに知ってる大佐なんて嫌ですが 口説きのために勉強してそうな気もしないでもない。

...031114up

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