nitrogen




        天国までご一緒しまショ?




「人は死んだら何処に行くのだろうね」

益体もない台詞が口を衝いたのは、彼が手にしていたその本のせいだ。
抱えてきた山の中の一冊、地獄から煉獄を廻り、天国へと至るある男の話。
彼にしては珍しいそれに訊ねれば、「企業秘密」との一言が返される。どこかの錬金術師の研究記録を手に入れて、読み解く手掛かりにするとでもいったところだろう。
愚かしい言葉に、自分は一体どんな返答を期待しているのか。分からないでいる内に、対する彼は視線を上げた。

「そりゃあモチロン」

口端を引き上げた質の悪い笑みで口を開く。

「分解されて窒素に戻るんだろ。そしてまた循環する。善人も悪人も
 金持ちも貧乏人も軍人も一般人もみーんな平等に。スッバラシイ!」

芝居がかった口調でそう云いきった。
そしてぽすぽすぽす、と、手袋のせいで些か間抜けな拍手を鳴らす。

「夢も希望もないね」
「でも事実だろ」

肩を竦めれば、何が悪いとでも云いたげな声。
全くもってその通りで、反論の余地は欠片もない。あってもする気もなかったが。
まあそんなものかと、それ以上の思考を打ち切った。





        それとも、地獄がお望みデ?




「まあもっとも?」

呟いた少年に目を遣れば、

「魂の行き先だったら、知ったこっちゃあないけどね」

嘯いた唇が、にんまりと弧を描いた。










窒素。窒素族元素の一つ。元素記号 N 原子番号七。原子量一四・〇〇六七。
窒素の循環はある意味とても夢と希望に溢れた話なのではとふと思う。
死後の世界は見たことないので取り敢えず現世を楽に暮らしたいです。

...040826up

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