|
vanadium
たとえ幾度地に這わされようと。
そして踏み躙られようと。
何ひとつとして失うことなく、この自分のままで。
「その立ち直りの早さは尊敬に価するがね」
「んあ?」
供された茶菓子を口一杯に詰め込んでいるところに声をかけられ、少年は顔を上げた。
「さっきまで目に見えて落胆していたのは、何処の誰だったのやら」
嘆息する男へ、
「‥‥‥‥‥‥、さっきはさっき、今は今だよ」
飄々と少年は答える。
微妙なタイムラグは戸惑いや躊躇いからではなく、口の中の物を呑み込んでいたためだ。
重要な手掛かりとなるはずだった文献は、全くの的外れだった。
また出直しだ、と小さく嗤った少年とそのまま別れるも気掛かりで、まあ茶の一杯でも付き合いたまえと
男が少年を自室へ引きずって来たのは、ほんの30分ほど前のこと。
それがどうだ、この豹変ぶりは。
「甘いね大佐、甘過ぎる」
チッチッと指を振って少年は云った。
ついでにその指先に付いていたクリームをひょいと舐め取る。
「今まで何回オレ達がハズレ掴まされてきたと思ってるのさ」
「それが自慢げに云うことかね」
「だって自慢だからね」
「外れを掴んできたことが?」
胸さえ張る少年を、男は幾分怪訝そうに見遣る。
その男に、少年は笑う。
「世の中にある情報なんか、いっくら多くったって限りがあるだろ。山ほどハズレ 掴んできたってことは、それだけ残りがアタリの確率が高くなるってこと」
そして云い切るその言葉は、力強くさえあって。
「随分前向きだな」
「とでも思わなきゃやってらんないよ」
少し意外な気持ちで云った男に、少年は両手を広げて苦笑した。
たとえ幾度地に這わされようと。
そして踏み躙られようと。
辿り着くべき場所に辿り着くまで、この自分のままで。
|