bromine




稲光に浮かび上がった夜の街は薄紫だった。
一瞬の、やけに鮮やかなその色が、稲光そのものよりもずっと強く目に残る。
綺麗だとただ思った。





「凄かったんだ」

今は穏やかな青い空。窓越しにそれを見ながら、エドワードは続ける。

「もう一回見たくて突っ立ってたらびしょ濡れになってさ、次の日カゼひいて、
 アルにすっげー怒られたけど」

小さく笑って、

「綺麗だったよ」

云った。それに返されたのは、深い嘆息。

「雨だがね」

やっと口を開いたロイは眉間に皺を寄せ、不機嫌さを隠そうともしない。

「夕立だからね」
「豪雨だったがね」
「シツコイなあ」

繰り返す相手にエドワードは呆れ、手をついていた机の端を指の背でトン、と叩いた。

「大佐もたまには、純粋に雨を楽しみなよ」
「あいにく、雷や台風で浮かれる子供時代はとっくに卒業している」
「あーそ−ですか」

皮肉に唇を歪めてエドワードは机から離れた。窓ガラスにぺたりと両手を付けて背を向ける。
拗ねた子供のような姿を、ロイはちらりとかえりみた。

「だが」

億劫そうに云う。

「あ?」
「君がそれほどに誉める光景なら、どれほどのものだか見てやりたいとは
 思うな」

相変わらず不機嫌な声の、けれどその内容に、エドワードは窓を向いたままにまっと笑った。

「よし、じゃあ雨乞いでもすっか」
「それはやめてくれ‥‥‥」

一層沈んだ呻きにさらに笑う。





綺麗だったから、
見せたいと、そう思ったんだ。










臭素。ハロゲン族元素の一つ。元素記号 Br 原子番号三五。原子量七九・九〇四。
『ブロマイド』の語源だそうですよ。日本語だと字面がいまいち。
雷の国に住んでおります。

...060825up

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