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hydrogen
命よりも大切?
まさか。
国のために死ねるか、と。
ふざけた問いに一言で返した。
「『命は鴻毛よりも軽し』じゃないの?」
「それなら君もだろう」
国家のためなら潔く身を捨てる。そんな言葉を持ち出して揶揄する少年だとて、立場は私とそう変わらない。そこを突いてやれば、相手はひょいと肩を竦めて応じた。
「命あっての物種だよ」
その肩から繋がる手を、机越しに引き寄せる。僅かに眉を上げた少年にひとつ笑って、その指先に唇を落とした。
「国に仕えるのも、こうして君に触れるのも」
「同列かよ」
嫌そうな顔で振り払おうとする。けれど捕らえた手を放さないままで、
「では君は?」
私が何より大切だとでも云ってくれるのか。
「聞きたい?」
問えば、にやりと笑む顔は歳より幼く、歳からは思いもつかないほどタチが悪い。
「‥‥‥止めておこう」
「そりゃ残念」
さほど残念そうでもなく少年が云った。嘆息して手の中の指を玩ぶ。
命あっての物種。だが。
命より大切だと、そう云ってやったら、この少年はいったいどんな顔をしてみせるのだろうか。
彼の逆の手が刃物を成して降ってくるまでのタイミングを計りつつ、そんなことを考えた。
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