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lutetium
あの頃は大変だったね、なんて
肩を叩き合える日がいつか本当に来るの?
腕が痛い。足が痛い。頭が痛い。背中が痛い。胸が痛い‥‥‥
「気が付いたかね」
「‥‥‥アルは?」
「隣の部屋だ」
寝かされていた寝台から少し離れた場所に医務官用の机。視界の端に映る。そこからかけられた聞き慣れた低い声。
ということは、何度か見覚えのあるこの天井は軍の医務室か。
「何があったかなど今更聞く気も起きんが、人の通勤途中でのたれ死んで いられたら迷惑だ」
「‥‥あー、そっか」
少し考えて小さく笑う。途端に肋骨に響いて咳き込んだ。何本かイッてるのかもしれない。
「ッハ、運が、良かったなっ、オレ」
「私は不運だよ」
嫌な拾い物をした。不満そうな溜め息に、上がる息を抑えて更に笑った。
「‥‥‥‥‥‥ねえ、大佐」
苦労して呼吸を落ち着ければ、ときどき繰られる書類の音だけが耳に届く。出張お仕事中らしい相手の返事は待たずに、天井を見上げたまま続けた。
「あと50年もしたら、思い出話に花が咲くのかなあ」
「頭も打ったか?」
「ちょっとね」
深く息を吸う。また胸が痛む。苦しい。
「『今』がいつか懐かしくなるなんて、オレには全然思えないんだ」
今になっては笑い話ね、なんて、穏やかに語れる人達のように、いつか自分もなれるのか。
この痛みも苦しさも全部終わらせて。
書類を繰る音が少し止まって、
「そんなことは」
そう間を置かずにまた始まった。
「年寄りになってから考えれば充分だと思うがね」
「手後れじゃない?」
「今悩んだら何か変わると?」
「そーですネ」
もっとも過ぎて軽く片付けるなと文句を云う気にもならない。
少しだけ肩を竦めておざなりな相づちを打つ。
「それより君が今為すべき事は、さっさと怪我を治して私の服の埃を 落とすことだよ」
「なにそれ?」
ギシギシと悲鳴をあげる首を無理に捩って頭上を見れば、いつもの悪目立ちする青が確かにない。
ちらりと視界を掠める服の袖は白。
「ズタ袋のような君を担いだせいで散々でね」
やむなく脱いでいるということらしい。つまりこんな場所で仕事をしている理由もそれか。服務規程違反で睨まれないためにの避難か。
「大佐と老後に茶飲み友達になるのはヤだなあ」
「安心したまえ、私もだ」
上着を寄越してみろと手を伸ばせばまた体中が痛い。
『今』がいつか『あの頃』に成り果てても、きっとこの痛みは忘れないんだろう。
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