nobelium




「世界中の全てを敵にまわしても、君を守ると誓う」




「などという口説き文句があるだろう?」
「知らねぇよ」
「私もたまに使うが」
「あ、使うんだ、へぇ〜」

ソファから寄越されるエドワードの冷たい視線を全く気にもせずに、真面目くさった表情でロイは続ける。

「この台詞はそもそも『君』が味方であることが前提な訳だが、もしもその『君』が敵だったら、それでもそいつは『君』を守ろうとするのだろうかね?」

執務机に片肘をつき、逆の手の背で目の前の書類をトントンと叩く。その内容を真剣に検討しているようでいて、その実、欠片も考えていない。つまりはいつもの現実逃避だ。

「またややこしいことを」

呆れて云いつつも、エドワードは読んでいた本をパタンと閉じた。休憩がしたいというのなら、たまには付き合ってやってもいいだろう。これも場所代だと思うことにする。

「その誰かは孤立無縁なわけ? 恋人も家族もみんな敵?」
「そうなるね」
「なら寝返ればいいじゃん。一人で頑張って敵やってなくても、そうすりゃみんな味方でみんな幸せ、だろ?」
「『世界中の全てと君の味方だよ』では、口説き文句として決まらないじゃないか」
「知るかよ」

そういう基準? やっぱり付き合って損をしたと手元の本をまた開いたエドワードは、けれどもう一度顔を上げてロイを見、晴れやかに笑んだ。そして云う。

「まあ、安心しなよ」
「とは?」
「世界でも何でも大佐の敵でも味方でも、とりあえずオレは365日アンタの敵です」
「‥‥‥それのどこで一体安心しろと‥‥」
「裏切られる心配は要りませんってコト」
「確かに、それはそうだがね‥‥‥」

物悲しげに肩を落としたロイは深く息をつき、机上に放り出していたペンを手に取った。観念して仕事に戻ろうとして、ふと止まる。

「だが‥‥‥」

神妙に云う。

「決して裏切らないというのも、それなりに上等な部類の口説き文句だな」
「‥‥‥アンタ、人の話ちゃんと聞いてた?」










ノーベリウム。アクチニド元素の一つ。記号 No 原子番号一〇二。原子量二五四。
ノーベル賞ってことで平和そうな話を。
ウチの人たちは相変わらずです。

...090506up

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