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promethium
気が触れそうになるきっかけなんて案外あっさりしたもので、きっとそれは日常と紙一重のブラックホール。
常識も理性も大切な人も願いも全て、守らなきゃならないものを全部すっ飛ばして、情動と衝動のままに生きられたなら、多分それはそれで幸せだ。
オレはまっぴらゴメンだが。
「どうした?」
「何が?」
何の脈絡もなく聞かれて面食らって返した。別件の報告の真っ最中、けど報告の中身を指してる訳じゃない。気が付いて大佐を睨み付ける。
「‥‥‥なんで?」
気付くな。それか放っとけよ。云えば、
「なら来るな」
冷淡な答えに深く息を吐く。ソファの肘掛けに倒れ込んで顔を埋めた。
「もうムリ」
くぐもった呟きの意味は自分でもよく分からない。何かがあった訳でもないのに、でもいろいろもう駄目だ。ダムが決壊したみたいにグチャグチャな心の中身を無理矢理『オレ』に放り込んで、普通の顔してここまで来たのに。
でももう、ムリ。
「そうか」
そうか、ともう一度呟いて大佐が席を立つ音がした。身動いだオレの横を足音がすり抜けてドアが開いて閉じる。
場所を貸してくれる気らしい。小さく笑って膝を抱えた。
―――二時間後には「邪魔だ」と蹴り出されたが。
今日をどうにか正気で生きて、明日かもしれない狂気に目を伏せる。
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