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terbium
ロイがふと手を止めて掛け時計を見上げたときには、約束の時間を40分ほど過ぎていた。
約束、といっても小さな口約束だ。別の用件での電話の最後に、ついでのように添えられた、『もしかすると寄るかも知れない』と、その程度の。
一区切りついた仕事の山に息をつき、次に時計に目を遣ったのは、約束の時間から2時間と30分後。
机の端に追いやられていたカップに手を伸ばし、ぬるまったいコーヒーに顔を顰める。
淹れ直そうと席を立った。
こんな日に限って、わざわざ出向くような事件も起きない。けれど細かな用事は幾らでも湧いて出てくるもので、部屋を出たついでにそれらを片付けて己の椅子に落ち着いた頃には、もう本日の終業時刻、約束のそれの6時間後になっていた。
目の前には未だに書類の塔がそびえ立ち、何やら増えている気さえする。事実、増えているのだろうが。
少し思案して、ロイはその頂上に手を出した。 積み過ぎて崩れる前に、少しは減らしておくか。彼にしては殊勝なことを考える。
周りの部屋から聞こえる物音がほとんど無くなったことに気付いて顔を上げた。 残業3時間。約束からは9時間。
ペンを置いて肩をほぐす。しまった、働きすぎた。
どこかで飲んで帰りたい気分だ。思いながらコートを羽織り、部屋の明かりを落とす。部屋を出る前にもう一度だけ、掛け時計に目を向けた。
時計を見た四度の間だけは、確かにあれを待っていたのだろう。
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