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thulium
見つめていたのは過去だろう? 縋っていたのは幻想だろう?
さあ起きろ。目を開けろ。そこに見つけた名を叫べ。
「って、イヌぅ!?」
湿った感触に目を覚ました。瞬間、視界に飛び込んできた獣のアップに後ずさろうとしてソファの背もたれに阻まれ、頭を打つだけに終わる。ソファ相手のため強かに打った頭よりも衝撃を受けた首の方が痛み、声にならない呻きを漏らして沈み込めば、依然傍にいた獣にまた頬を嘗められた。
「慰めてやっているわけか。出来た犬だな」
鼻で嗤った男は少し離れた己の机、珍しくも紙の積まれていないそれに頬杖をついてこちらを見ていた。何故か疲労の滲む顔。
「何でコレがココに居んの?」
「君がここで寝こけているよりは自然だと思うが?」
嬉しげに尾を振りつつなおもエドワードの顔を嘗めようとしてくる犬を両手でブロックする。確かにコレは中尉の飼い犬で、たまにしか寄らない自分よりここに居るのが自然と云えば自然な気がしなくもないがそれも何か違う気がする。
「で、大佐は何で疲れてんの?」
「疲れもするだろう。部屋に獣が二匹も居れば」
犬のことはひとまず置いて気になったことを訊ねて見れば、やはり微妙に要点を外した答えが返される。おまけに多分に失礼だ。抗議しようとしたエドワードに、しかし、ロイが先に声をかけた。
「で、君は怖い夢でも見たのかね?」
「‥‥‥なんでそう思うわけ?」
「良かったじゃないか、慰めてもらって」
今日はどこまでも真ん中を外してくるつもりらしいロイの言葉に、エドワードは己の頬に手をやった。濡れて乾いた感触。舌打ちをする。
今は足元を転げ回る犬をのばした手でわしゃわしゃと撫でた。
「ああ、本当に出来た犬だよ。アンタと違って」
余計なこと云わないもんな。呟いた途端、ワンと一声吠えられた。
夢の中身は覚えていない。
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