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yttrium
思いのほか熱い唇が押しつけられたのは、エドワードの左の手首の内側だった。
季節はずれの蒸し暑さに捲り上げていた左袖。そのむき出しの片腕を、手首を始点に肘の内まで、青白く透ける血管を辿って、体温を確かめ
るようにゆっくりと唇が進む。
「何なの、急に」
「いや‥‥‥」
読書の邪魔をされたエドワードが眉を顰めると、ロイは捕らえた手首を放さないまま顔を上げた。
「青いから、冷たいのかと思ってね」
「ガキの疑問かよ」
「冷たくはなかったな。熱くもないが」
呆れるエドワードの視線の先、なおもロイは手の中の腕を指先でなぞる。
「切り開いたら、ちゃんと赤いかな」
「頼むから、確かめるなら自分のでやってよ」
「それで何が楽しいのかね?」
「娯楽で人の腕、切り裂く気?」
「探求心だよ」
ソファに座ったままのエドワードは、斜め前に立つロイに捕られたままの腕が怠くなってきて、引き戻そうと軽く引く。けれど、掴んだ手に
込められた力は存外に強く、叶わない。
仕方なく腕は諦めた。
「血が青かったら化け物だろ」
「逆もある」
「逆?」
「ブルー・ブラッドと云うだろう?」
「ハッ」
ロイの言葉を、エドワードは鼻で嗤った。
「あいにくと、高貴なお家柄には縁がねえよ」
「そんなことは見れば判るが」
「どうせ庶民ですよ」
自分から話を振っておいてそれはないだろう。拗ねるエドワードに小さく笑い、ロイは再び、捕らえていた腕の中程に唇を寄せた。
「っ」
不自然な体勢で長く引き上げられて、血の下がった腕。
感覚の鈍くなったそこに一瞬、ちりりと鋭い痛みが走る。
「貴い血筋の者にとっては、施しさえも義務だそうだが‥‥‥」
己がきつく吸ったそこ、鬱血の痕をロイは眺めやり、
「赤いな」
つまらなそうに一言、云った。
「施しが欲しいわけ?」
「まさか。単なる世間話さ」
「大佐の血なら、きっと緑とか黒だと思うけどね」
「確かめてみるかい?」
掌の内の左手を、ロイは自身の首筋に押し当てる。
血の気の失せたエドワードの手よりも僅かに高い体温、振動で伝わる血の流れ。
つられて上向いたエドワードの唇に、ロイのそれが重ねられる。
やはり少し熱かった。
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